「せんぱぁい、トリックオアトリート!」
「あら、平太にしんべヱに喜三太。その格好可愛いねぇ」
「えへへ、ありがとうございます」
今日は委員会は休みだが、残っている仕事を片付けるために食満先輩と作業していると、黒い布をくるくると身体に巻き付けてお化けっぽく装っている
可愛らしい後輩達がやってきた。
用意しておいたお菓子を三人に渡してあげると、嬉しそうな笑顔で口々に「ありがとうございまぁす」とお礼を言ってくれた。
「あ、作兵衛にもこれ渡しといてくれるかな?」
「はーい、分かりましたぁ」
あぁ、本当にウチの後輩は可愛いなぁ…。
「お、お前らお化けの格好してんのか。似合ってるぞ」
「あ、食満先輩」
後輩達の声を聞き付けてか、倉庫の奥の方で作業していた食満先輩がやってきた。
「食満先輩食満先輩、トリックオアトリート!」
「おー、じゃあこれ皆で分けてな。後でちゃんと作兵衛にも持ってくんだぞ」
「ありがとうございまぁす!」
食満先輩からお菓子の包みを受け取ると、三人は元気よくぱたぱたと駆けて行った。
恐らく作兵衛の所へ向かったのだろう。
その背中を先輩と見送ってから、再び自分の仕事に戻る。
一生懸命手を動かしていたその時、ふと問うてみたくなった。
「食満先輩」
「何だ?」
「あの、私にはお菓子ないんですか?」
「あー…」
別にお菓子が欲しかった訳じゃなくて、何となく気になっただけなのだ。
いつもこういう時には、食満先輩は私の分も含めて全員分を用意してくれてるから余計に。
そんな軽い気持ちで聞いたのに、先輩は言いにくそうに言葉を濁した。
「あ、あの、別にお菓子が欲しい訳じゃないので、気にしないで下さ…」
「あぁいや、そういう訳じゃなくてだな、その…」
慌てて弁明すると、それを上回る勢いで食満先輩が言葉を紡ぐ。
「この作業が終わったら、あんみつでも食いに連れてってやるよ」
「この前食いたいって言ってたろ」と、それだけ言って先輩は自分の作業に戻ってしまった。
この前ぽつりと零しただけの事を、まさか覚えていてくれたなんて。
しかも、二人きりで食べに出掛けるって、それじゃまるで。
…まるで、逢引みたいじゃないですか。
どうしようどうしよう、凄く嬉しいんだけど…!
まずは目の前の仕事を片付けなくちゃ、と私は逸る心を抑えつつ先輩に倣って仕事に戻った。
…今のは流石にわざとらしかっただろうか。
「この作業が終わったら、あんみつでも食いに連れてってやるよ」
なるべく自然に聞こえるように言ったつもりだが、は一体どう捉えたのだろう。
実を言うと、の分のお菓子はあえて用意しなかった。
他の後輩達にゃ悪いが、今日委員会で二人きりなのを利用して、本人さえ了承してくれるなら一緒に甘い物でも食べに行こうと思っていたのだ。
言うだけは言った事だし、後はの反応次第だ。
二人きりで出掛けるなんてまるで逢引みたいだよな、なんて考えながら、俺は早く仕事を片付けようと気合いを入れた。
武器を持たない狩人は
(甘いお菓子で獲物を捕える)