「…何やってるの」
「…見たまんまだよ」
ただ普通に校庭を歩いていただけなのに、地面が崩れる感覚がして、気が付いたら穴の中。
これでも一応、注意はしてたつもりなのに。
かかった獲物を確認しに来たのだろう、この穴を掘った張本人らしい綾部は私の姿を見るなり溜息と共に
開口一番呆れたような表情で言い放った。
「んー…じゃあ身を以て僕の腕を確かめに来てくれたんだね」
「一体全体どんな思考回路を以てすればそういう結論に達するのか教えてくれないかな」
「違うの?いつも見事に落ちてくれるから、てっきりそうなのかと」
「好きで落ちてるんじゃないから!…本当に、私が不注意なのか綾部が腕上げてるのか…」
「両方じゃない?…あ、あとを狙って掘ってるし」
「ちょっと待て、それどういう事だ詳しい説明を要求する」
今何か聞き捨てならない事が聞こえてきた気がする。
幻聴かな。出来ればそうであってほしいんだけど。
「だって保健委員落とすのいい加減飽きたし」
「飽きてやらないでよ、どうせだったら私を落とすのにも飽きてよ!」
「やだ」
即答だった。
何で保健委員に飽きて私に飽きてくれないのだろうか。
保健委員も私も、確実に好きで落ちてる訳じゃないのに。
「ところで、そんなにその中気に入ってくれたの?出ようとする素振りが全く見られないんだけど」
「…今縄持ってないから出たくても出られないの」
「…そう」
何で今日に限って縄を忘れてきたんだろうか。
出れるものならとっとと抜け出して一発くらい殴ってやりたい所だ。
…というか、本当に全然悪びれもしないな、綾部。
一回くらい自分の穴に落っこちて出られなくなっちゃえばいいのに。
そんな事を考えていると、思い掛けず穴の中へと手が伸ばされてくる。
出してくれる、という事だろうか。
「あ、ありがと」
とりあえずお礼を言って、綾部の手を取る。
…と、上へ引き上げてくれるのかと思ったら、どういう訳か綾部が降りてきた。
「…何してんの綾部」
「僕も穴の出来具合を確かめようと」
「…縄、持ってるんだよね?」
「ないよ」
「…これからどうすんの、出られないじゃん」
「さあねぇ」
一体この男は何を考えているのだろうか。
てっきり出してくれるのかと思って差し出した手は未だ握られたままだし、脱出する手段なんかないし。
「え、ちょ、ねぇ綾部、何でこっち寄ってくんの、もうちょっと離れてくれないかな?」
「一人用の塹壕だから狭いんだよ」
「それわかってるなら何でわざわざ落ちたの?ねぇ何で?」
綾部は私の質問には答えず、じりじりと距離を詰めてくる。
「…あの、せめてこの手だけでも離してくれないかな」
「離したら意味ないでしょ、何のためにこうしてると思ってるの」
ぐいっと手を引かれ、私の身体はそのまま綾部の方へと倒れ込む。
「わ、」
意外と筋肉質なんだな……って、そうじゃなくて!
慌てて身体を起こそうとすると、いつの間にか腰に回されていたもう片方の手によってそれを阻まれる。
「…さて、もう逃がさないよ」
耳元でそう囁かれ、私はもう諦めるしかないと悟ったのだった。
上手な罠の仕掛け方
(捕らえるためならどんな事でも、)