「…どうしよう」
「あれ可愛いなー、あ、これも可愛い!」と嬉しそうにはしゃぐを尻目に見ながら、こっそりと溜め息を吐く。
俺はこれからどうすればいいのだろうか。皆に聞いても結論が出ないし、何よりこんな事初めてだし。
そもそもどうしてこんな状況になったのか。…いや、別に悪い状況って訳じゃない、むしろ美味しい状況だと思う。…だけど、なぁ。
俺は頭の中で昨日の事を振り返る。



「なぁ、女子に贈って喜ばれるものって何だ?」
俺の問い掛けに、それまでお喋りしてたり取っ組み合いをしてたりと思い思いに昼休みを過ごしていた皆の視線が一気に集中する。
とりあえず親身に相談に乗ってくれそうな庄左ヱ門に質問したつもりだったんだけど、皆の興味を引いてしまったのかわらわらと俺の元に皆が集結してきた。
「えー何、何か贈る予定でもあるの?に」
「だっ、誰もになんて言ってないだろ!一般論を聞いてるんだよ俺は!…というか兵太夫には聞いてない!」
「へーえ?」
にやにやと笑いながら問うてくる兵太夫は、明らかに面白がってやがる。新しい玩具を買ってもらった子供のような反応しやがって。
「貰えるものは何でも嬉しいけどな、だってタダだし」
「それはきりちゃんだからでしょ…」
「俺は新しいバイクが欲しい」
「誰も団蔵の事は聞いてないから」
「食べ物がいいんじゃないかなぁ」
「皆自分の欲しいもの考えてるだろ…」
「…というか金吾誰に贈るの?兵ちゃんの言う通りに贈るのー?」
「いやー、金吾も隅に置けないなー」
「とうとう剣道一筋の金吾君にも春が来たか」
「いやぁ羨ましいねー」
「……」
駄目だ、やっぱり自分で考えた方がよさそうだ。皆思い思いに発言してくけど、どうにも参考にならない。
…と、俺の肩をぽん、と叩く手があった。振り返ると、そこには元々の相談相手だった庄ちゃんが立っていた。
「金吾が一生懸命選んだものなら、もきっと喜んでくれると思うよ」
「庄ちゃん…!」
決めた。俺一生庄ちゃんに付いてく。まともに話を聞いてくれるのはやっぱり庄左ヱ門ただ一人だ。
感激のあまり目元がちょっと潤んできた。この際にあげる事で話が進んでた事も気にならなくなってきた。一応事実な訳だし。



「…とは言っても、なぁ…」
確かに庄左ヱ門の言っている事は的を射ているし、一番いいアドバイスだと思う。
だけどそうは言ってもいい案が急に閃くなんて事もないので、結局何も準備出来ないままずるずるとここまで来てしまった。
とりあえず一緒に出掛ける約束を取り付けて一緒に雑貨屋まで来てみたはいいものの、全くもってどうすればいいのか見当がつかない。
やっぱり素直に何が欲しいのか直接本人に聞くのがいいか。いやでも、それも何だかなぁ…。
ここまできても悩みの種は尽きない。兵太夫辺りに「だから金吾はヘタレなんだよ」と笑われる図が頭に浮かぶ。畜生、言い返せないじゃないか、悔しいけど。
…えぇい、男は度胸!ここで何も買えなかったらそれこそ笑い者だ。
「…なぁ、」
「んー?あ、金吾、これ可愛いと思わない?」
お小遣い日までまだあるからどうしようか迷うんだよね、と困ったように笑うに、確かにそれは似合っている。
控え目で可愛らしい、飾りの小さめなネックレス。…よし、これだ。
「似合うじゃん。ちょっとそれ貸してよ」
どうするんだろう、これ女物なのに、とか思ってるんだろう。疑問符を浮かべながらも、は素直に俺にそのネックレスを差し出す。
…これぐらいの値段なら予算内だ。値札を確認して、とりあえず一安心する。よし、じゃあ後は。
「すいませーん、これ下さい」
「え、えぇ?どうしちゃったの金吾、まさか金吾も気に入っちゃったの!?」
「…言っとくけど、自分用に買った訳じゃないぞ」
「え、あ、そう…何だびっくりした…」
「どんなの贈れば喜んでくれるのか俺全然分からなくて、だから、その、」
「あ、そっか!今日ホワイトデーだったね、律儀だなぁ金吾は」
まさか自分用に購入したと誤解されるとは思わなかったが、今日の誘いの意図は伝わったらしい。…駄目だなぁ俺、どうしてもっと格好良く出来ないんだろう。
好きな子の前でくらい、格好良くありたいのに。いっぱいいっぱいで情けない自分に悔しさを覚えつつも、店員がラッピングしてるのを眺めていると、がふふ、と小さく笑ったのが分かった。
「金吾が一生懸命選んでくれたものなら、何だって嬉しいのに」
…あぁ、やっぱり庄ちゃんは正しかったんだな。例え格好悪くても何でも、が喜んでくれたならそれでいいや。





全力ヒーロー

(例え格好悪くても、君が笑ってくれればいい)