「ねぇ久々知、暑いんだけど」
「俺だって暑いよ」
筆記試験が間近に迫った今、頭よりも身体を動かす方が好きな私は、成績優秀な友人、人呼んで豆腐小僧な久々知兵助の部屋に押し掛けて、
同じく筆記試験を控えている彼と一緒に勉強している訳なんだけど。
何で久々知はこの蒸し暑い中、平然と勉強出来ているのだろうか。
…もしかして久々知、体温低かったりするのかな。
そう思ってさらさらと筆を走らせている久々知のほっぺを軽くつねってみると、久々知は走らせていた筆を置いて、書面から私の方へと視線を移した。
「…何すんの
「久々知がこの暑い中あまりにも涼しそうな顔してるから、もしかしたらひんやりしてるかなと思って」
「元々こういう顔なんだよ、俺だって暑いものは暑い」
「だったらこの暑さどうにかしてよ、暑くて溶けそうなんだけど」
「どうにか出来るなら、とっくにどうにかしてるよ…」
暑いと人間の思考回路も駄目になってしまうのだろうか、かなり理不尽な要求だとわかってはいるが言わずにはいられない私の言葉にも、
この暑さにも負けずにいまだ正常な思考を維持しているらしい久々知は至極冷静に返してくる。
「池で水浴びしてこようかな…」
「勉強はどうすんの」
「これだけ暑いと流石に集中出来ないし、後から頑張る」
「んー、まぁ確かにそうだよな。……あ、」
冷静な切り返しを受けてちょっと落ち着いてきた私は、先刻よりはまともな涼み方を思い付き、すぐさま実行しようと立ち上がろうとした時、
何かを思い出したように声を上げた久々知に引き留められた。
「なぁ、今すぐこの場で涼しくなれる方法思い出したんだけどさ、やってみるか?」
「え、そんな方法あるの?やるやる、今すぐやる!」
流石久々知、そんな素晴らしい方法知ってるなんて、と食い付いた私の反応に、久々知も満足げに続ける。
「うちの後輩から聞いたんだけどさ、」
「あ、伊助君に?」
「うん、そう。それでさ…」
言いながら久々知は私の後ろに回る。
私も久々知に向き直ろうと身体を回転させようとすると、「あ、はそのままでいいから」と動きを止められた。
一体何をするつもりなんだろう、とそのまま座っていると、後ろから腕が回ってきて、ぎゅっと抱き締められる。
私の両脇は藍色の装束に包まれた足でがっちりと固められており、つまる所私は今久々知の足の間に座らされて抱き付かれてる状態という事になる。
「ちょっと、久々知…!」
「なぁ、知ってる?今の気温よりも人間の体温の方が低いんだよ」
だからこうやってくっついてた方が理論上涼しいんだよ、一年は組の皆でやったんだって。
そう付け足す久々知の腕から伝わってくる体温は、気温よりもずっと熱く感じられる。
「どう?涼しい?」
「…全然」
「だよな、俺も熱い」
でももうちょっとだけこのままで、と離れるどころか更に密着してきた久々知の行動に、気温の高さなんかどうでもよくなって。
…あぁ本当、何でこんなに熱いんだろう。





どうしようもなく熱い、

(そして気付く、この熱さの意味)