「…何でウチの台所が異空間になってるんだ」
「あ、兵助お帰りー。バイトお疲れ様!」
バイトから帰ってきて自宅のドアを開けると、甘ったるいような何かが焦げたような、何とも言えない匂いが漂ってくる。
その匂いの発生元と思われる台所へと足を踏み入れると、そこには隣人である幼馴染、の姿があった。
「ウチの台所で何やってるんだ?」
「え、あぁ…“俺の目の届かない所で料理だけはするな”っていう言い付けを守って、ちゃんとここで料理を」
「…俺がいなかったら意味ないよな、それ」
何を作ってるのかはよく分からないが、お菓子を作っている事だけは分かった。
こんな甘い匂いのする晩ご飯は、全力で遠慮したい所だ。
「本当は兵助が帰ってくる前に完成させたかったんだけどね、ちょっと手間取っちゃって」
チョコや生クリームを頬やエプロンに付けながら、へにゃりと笑うに、すっかり毒気も抜かれてしまった。
が持っていたボウルを手に取る。
「え、」
「…俺も手伝うから」
料理が壊滅的に出来ないがこれだけ頑張ってるんだ、少しくらい手を貸してやるか。
「出来たー!」
日付が変わる前に、の作っていたお菓子を何とか作り終えた。
「流石兵助、いつでもお嫁さんになれる腕前だね」
「…俺は貰う方だ」
ここは自分の心配をしてもらいたい所だが、嬉しそうなの表情に、まぁいいかなんて思ってしまう。
そんなに食べるのが楽しみだったのか。色気より食い気なのは昔から変わらない。
「はい」
「…?」
何で俺に全部差し出すんだろう。
切り分けろ、という意味なのだろうか。
よく分からないの行動に首を傾げていると、変わらぬ笑顔で彼女は言葉を続けた。
「これ兵助のだよ、いつもお世話になってるから」
―――――あぁ、だから放っとけないんだ、この幼馴染は。
今はまだ、このままで
(“幼馴染”でもいいか、今はまだ)