暦の上では春であるとはいえ、まだまだ寒い日が続く今日この頃。廊下の床から伝わってくる刺すような冷たさに、思わず踵を浮かせて早歩きになってしまう。
折角お風呂で温まってきたのに、これじゃ部屋に戻る前に凍ってしまいそうだ。ちょっと大袈裟かもしれないけど、本当にそれくらいの温度差だ。
今日はもう課題も終わったし、部屋で私を待っているのはふかふかの布団、ただそれだけだ。
早く飛び込みたいなぁ、私のオアシスに。うきうきしながら自室の扉を開けると、何故か私の布団が真ん丸に膨らんでいた。
私の部屋は一人部屋だ。だけどその布団の膨らみは明らかに人一人分の大きさである。
誰だろう。くのたまの友達が悪戯でも仕掛けに来たのだろうか。忍たまをターゲットにする事は多いけど、まさか自分がターゲットになるなんて。
恐る恐る布団に手を掛けて、思い切ってがばりと捲ってみると、そこで丸まっていた人物に「寒い」と布団を奪い返されてしまった。
人様の部屋に不法侵入を果たしてくれたその人物は、また布団に包まってしまったが、目に入ってきた長くて少しふわっとした黒髪に、その人物が誰なのかが判別ついた。
そこにいたのはくのたまの友達なんかじゃない。そこにいたのは。
「…何でいるの、兵助」
「今日は冷え込むなぁと思って」
「いや、確かに今日は冷え込むけどさ、だから何でそれで私の部屋にいるの」
が風呂に入ってる間に布団を温めておいてあげようと思って」
「…そりゃどうも。じゃあ私もう寝るから部屋戻ってくれないかな」
「何でさ?このまま入ってこればいいじゃん」
…五年い組の優等生様の考えている事が全く以て理解出来ない。
女の子の部屋に不法侵入した挙句に居直るとは、一体どういう教育を受けてきたのか。…あ、そんな事言ったら先生方に失礼か。
兵助は本当に出て行く気がないようで、「…寒い」と言ってまた布団に包まってしまった。
「…えぇと、そこにいられると私が寝れないんだけど」
「人間湯たんぽ、欲しいと思わない?今日は冷え込むんだし」
眠いなら早く布団入んなよ、と腕を取られたかと思えば次の瞬間には布団の中に引き摺り込まれた。
一体いつからここにいたのだろうか。兵助の体温によって布団の中は程よい温もりを持っていた。
「…で、そろそろ離れてくれないかな、人間湯たんぽさん?」
「やだ」
布団の中が温かいのは結構なのだが、この背中の温もりも離れる気配を全く見せない。それどころか私から体温を吸収するかのようにもっとぎゅっとくっついてきた。
お腹に回された腕に力が込められたのが分かる。私の肩口に顔を埋めているようで、さらさらした髪がちょっとこそばゆい。
…外は寒いと思ったのに、何だか凄く暑くなってきたように感じられる。外側からもだけど、体の芯からじんわりと温められる感覚だ。
「…ねぇ
「何?」
耳元に低めの声が響く。私の心臓に優しくないからやめてくれないかな。私の心境を知ってか知らずか、そのまま兵助は口を開く。
「折角俺っていう湯たんぽがあるんだからさ、もっと温まれる事しない?」
「…助平」
兵助の言わんとしてる事が分かり、顔まで熱くなってきた。
私の返事を待たずして寝巻きの中に伸ばされた手に、まだまだ寝かせてもらえそうにないな、と温もりに身を任せる事にした。





温もりさがし

(やっぱり、一人よりも二人で温まりたい)