「いやぁ、世の中すっかりハロウィン一色だねぇ。オレンジと紫はやっぱ鉄板だよね」
不気味な笑顔を浮かべる鮮やかなオレンジのカボチャ、魔女を始めとして可愛らしくデフォルメされた狼男やミイラ、ゾンビなどが描かれたパッケージ。それらを抱え込みながらあーん、と次々と自分の口に甘味を運んでいく私を失礼な事に呆れたように見て、常々だるそうにしてる三郎が更にだるそうに溜め息を吐いた。
「本当にお前はハロウィン満喫してるよな」
「だってハロウィン限定フレーバーだとかハロウィン限定パッケージだとかさ、こう、祭り好きの血を騒がせるようなものがずらりと並べられてるのよ?しかも大学生の特権で少しお安く買えちゃうのよ?本当この大学来て良かったぁ」
「お前ひょっとして食べ物の揃いで大学選んだのか、流石だな」
「いやいやいや、それだけじゃないけれども」
「これも主な理由なのかよ!」
三郎に盛大に突っ込まれた。いやいや冗談だったんだけど。本気にしないでほしいなぁ、一体私の事を何だと思ってるんだろう。歩く胃袋とか思ってそうだな、きっとそうだ。女の子は元来お菓子に目がないものなんだって習わなかったのかな、人生経験から。目の前にその権化がいると言うのに。だから雷蔵の方が女の子に人気あるんだ、三郎と違って捻くれてないし。
特に発表にも追われてないし、授業の空きコマを有意義に秋らしく過ごそうと購買部にお菓子を見に行ったら、同じ大学ではあるが学科の違う三郎と、あと珍しい事に兵助と出会った。
三郎は意外と新作のお菓子に詳しいくらいの甘味好きだが、兵助はあまり間食を摂る事が好きではないようで、滅多に購買には顔を出さないらしいから、何となく得した気分になった。一所に留まる事をよしとしない三郎はちょこちょこ色んな所で見かけるが、真面目な兵助とばったり会うのは図書館が多い。夜に会うと、お互い一人暮らしの身という事もあって、たまに調べ物が終わった後に夕飯をご一緒させて頂く事もある。とは言っても、大学により近い兵助の家で手料理を振る舞って貰う事が殆どなんだけど。正直言って私が作るより美味しいんだよね、欲を言えば豆腐料理以外も食べさせてもらいたい所なんだけど、作ってもらっている身分だしそれは未だに言えずにいる。
そんな訳で折角だから私の話し相手になってもらおうと無理矢理引っ張って来たのである。だって二人とも暇そうだったし。正確に言うなら私が暇だからとにかく相手して貰いたいだけなんだけど。
「それにしてもアレよね、ハロウィンってお菓子業界の為のイベントよね。ハロウィンにちなんだお菓子は沢山発売されるけど、行事自体は知られてるとは言っても浸透してる訳じゃないし、実際にあの有名な台詞言った事も言われた事もないのよね残念ながら」
「トリックオアトリート」
「一度くらいは言ってみたいよねー……え、あれ、兵助今何て?」
「あれ、言って欲しかったんじゃないのか?」
なるほど、これは予想外の反応だった。三郎も今の兵助の発言には流石に驚いたようで、目を瞬かせて普段は気怠げに開いている目をぱっちりと開いた。
当の兵助はと言うと、自分の発言の巻き起こした衝撃を全く意に介していないというかその衝撃を理解していないようで、きょとんとした表情をしている。その大きな目には、さぞかし間抜けな表情を浮かべた私が映っている事だろう。たまに兵助は予想を飛び越える爆弾発言をする事がある。私の発言に乗ってくれたのは大変嬉しいんだけど、まさかこんな乗り方をされるとは誰が予想出来ただろうか。
とりあえず、折角乗ってくれたんだから何か反応を返さないと。だけどそのまま素直にお菓子を分けてあげるのもつまらない。もっと面白い反応の期待できる切り返しはないだろうかと考える。
恐らく兵助は無難な回答である前者が返ってくると思っているだろう。それならその裏をかけばどうだろう。そう思って私はとりあえず今机の上にあるお菓子を全部一人の目の前に集める。
「…三郎、このお菓子残り全部食べていいよ。あげる」
「…は?え、ちょ、お前…」
……兵助じゃなくて、三郎の方に。残念だけど私は捻くれ者なんだ、ここで素直にお菓子をあげたりなんかしないんだから。
「さて、そんな訳で私お菓子持ってないんだけど、どうしようか?何するつもりなの?」
「……そう来たか」
考えてなかったな、と兵助は真剣に考え出す。「兵助もだけど、お前も大概変わってるよな」と三郎が溜め息を吐く中、私は嬉々として兵助の決断を待つのだった。





ダンス・ホールにご招待
(踊らされてみるのも一興)





「えー…、何がいい?全然思い付かないんだけど」
「いやいや聞くのかよ悪戯する本人に!」
「んー、じゃあ今晩夕食ご馳走してよ、豆腐以外で」
「お前もそれでいいのかよ!それ悪戯じゃねぇだろ!」
「ん、分かった」
「……お前らって本当平和だよなぁ…」