委員長がいないと、こんなに平和なんだなぁ。
三木と二人、予算案を纏めているとしみじみと実感する。ギンギン言ってないだけでこうも違うとは。鬼の居ない今のうちに、この幸せを精一杯噛み締めておこう。
静かな会計室で、シャーペンを走らせながらも心地よい静けさに浸る。
…と、三木が何の前触れもなくこの静寂を破った。
「…なぁ、今度の週末空いてるか?」
「うん、暇だけど?」
「…そうか」
また静寂が訪れる。この質問に何の意味があったのだろうか。「何だ、休日を一緒に過ごす相手もいないのか」と笑うために聞いた訳ではなさそうだけど。
勝手に自己完結するな。凄く気になるじゃないか。
そう思いながらもまた帳簿と睨めっこしていると、再び三木が口を開いた。
「…ここに映画の無料券があるんだが」
言いながら三木は制服のポケットからチケットを二枚取り出す。妙に様になってるのは、流石自称アイドルといった所だろう。
「…その、僕と一緒に行かないか?折角のチケットを無駄にするのも勿体ないだろ」
「えっ、私とでいいの?」
「他にいないだろう」
それともまさか、この僕の誘いを断る訳じゃないだろうな、とここだけ聞けば強気と取れる発言も、目の前の彼を見れば明らかな虚勢だと分かる。
表情に全部出てるんだよ、三木は。素直じゃないようで素直なんだなぁ、本人は気付いてないだろうけど。
週末は暇だし丁度観たい映画もあるし、何てお得な条件が並んだお誘いなんだろう。私にとって美味しすぎるこのお誘いを断る理由なんか見当たる訳もなく、二つ返事で了承させて頂く事にした。
―――――週末。
約束の時間に遅れないようにと早めに家を後にしたのだが、ちょっと早すぎたかな。
一人で観るんじゃないならと、ちょっと気合いを入れて洋服選びをして髪も整えてきたけど、やっぱり普段通りでも良かったかな。まるでデートみたいじゃないか。別に私と三木はそんな関係じゃないし、三木もそんなつもりで誘った訳じゃないだろう。三木に「何一人で勘違いしてるんだ」とか笑われたらどうしよう。
集合場所へ向かって歩きながらそんな事を考える。三木との待ち合わせ場所までもう少しだ。普段から愛用している、小さめの腕時計に目を落とす。…やっぱりちょっと早すぎたなぁ、まだ時間まで軽く三十分はあるじゃないか。
適当にその辺で時間潰そうかな、と思って周りの建物を見回してみる。すると見慣れた建物の他に見慣れた人物も目に入ってきた。
「…あれ、三木?」
ひょっとして私は待ち合わせの時間を勘違いしていたのだろうか。私が思っていた時間に来ようと思うにしてはいくら何でも早すぎるだろう。私の到着も早すぎるぐらいだと思っていたのに。
「…早いね三木」
「僕の時計がずれてただけだ」
「三木の腕時計って電波時計じゃなかったっけ、どうやったらずれるの」
「…電波が悪いんじゃないか」
「いやいやいや!そんな訳ないでしょ携帯じゃないんだから」
「何だっていいだろ。とにかく、楽しみすぎて早く家を出たって訳じゃないんだからな、そこだけは勘違いするなよ!」
ここで「お前が遅いだけだ、何時集合だと思ってるんだ」とか言われたら素直に自分の勘違いを謝罪するつもりでいた、のだが。
予想に反して返ってきたのは、怒られるどころか必死の弁明だった。…いや、弁明にすらなっていない気もするが。
どうも気合いを入れてきたのは私だけじゃなさそうだ。だったら少しくらいははしゃいでも、いいかな。
「…まぁいいや、とにかく映画観に行くぞ」
そう言って早足で歩き始めた三木に遅れないように、私も歩き始める。今日の映画は、思ったよりもずっと楽しめそうだ。
言葉よりも単純な
(言葉とは裏腹だけど、気付けばずっと分かりやすい)