「…ねぇ滝、私滝の事どうしようもない自惚れ屋で時々すっごく面倒臭いって思う事もあるけど、でも優しい所もあるし、
何だかんだ言っても良い奴だって思ってるよ」
「…何を藪から棒に」
人からお褒めの言葉を頂こうものなら「当然だろう」と自信満々に返すような滝も、私のまるでお別れと言わんばかりの
真に迫った褒め言葉は流石にすんなりと受け止めはしなかった。
普段成績や容姿はやたらと自給自足制で褒めまくってる滝も、人から内面的な部分を褒められるのには慣れてないのだろう、
ふいっとそっぽを向かれてしまった。
でもね滝、私は手放しでこんな事言ったりしないんだよ。
「だからね滝、私そんな滝の事絶対に忘れないから!」
「……?」
滝は逸らしていた視線を再び私に戻した。
このきょとんとした表情からして、まだ私の言葉の真意には気付いていないのだろう。
今日の委員会の集合場所、校門が見えてくる。
…あぁ、やっぱり七松先輩はもう来てらっしゃいますね。
じっと待ってるのは落ち着かないのだろう、暴れたくてうずうずしてるのがここからでもよくわかる。
「七松せんぱーい!」
「おぉ、やっと来たか」
ちょっと離れた場所から先輩に呼び掛ける。
先輩に近付きすぎたら私の計画が崩れ去ってしまう。
私は滝を盾代わりにして考えておいた台詞を口にした。
「先輩、今日は金吾も四郎兵衛も三之助も実習でいないんですよね?私は皆が帰ってくるのに備えて用具委員長に断られた
バレーボールの修繕でもやってますから、今日は滝と二人でランニングしてきて下さい。滝は自他共に認める優秀な忍たまですから、
先輩が全力を出しても余裕で付いていけると思いますよ!」
「ちょっと待て、お前私を売るつもりか!?」
「私がいても足手纏いになるだけですから!私大人しくバレーボールと格闘してくるので失礼します!」
「そうか、それじゃそうするか!三人が帰ってきたらバレーやりたいしな」
「安心して、滝の武勇伝はちゃんと皆に伝えとく」
「この私を見殺しにするつもりか!?」
「骨くらいは拾ったげる」
「じゃ、頼んだぞ。…さて、行くか滝夜叉丸。いけいけどんどーん!」
「お前、後で覚えてろぉぉぉ!」
七松先輩に引き摺られて行った滝の声がどんどん遠ざかっていく。
ごめん滝、私全力の七松先輩になんてとてもついていける気がしない。
「平和っていいなぁ…」
二人を見送った後、黙々とほぼ七松先輩の所為で駄目になったボールを修繕してて、つくづく思う。
犠牲になってくれた滝には、今度何か奢ってあげる事にしよう。
あぁ、それにしても平和だなぁ…。
「おーいー」
…気の所為だよね、七松先輩らしき人がこっちに向かって走ってくるのが見える。
「やっぱり委員会は皆でやらないと楽しくないからな、戻ってきたんだ」
平和は暴君委員長の前に儚く散った。
「で、でも修繕やらないと…」
「そんなの用具委員に任せとけ!後で私が食満に頼んでくるから心配しなくていいぞ」
うわぁ食満先輩ごめんなさい。
「な、だからも来い」
「いやぁ私は遠慮しておきますよ」
これはアレだ、逃げるに限る。
身体を反転させて逃走を試みようとしたが、そんな私の努力も虚しく、ぐいっと顔を七松先輩の方に向かせられた。
「なーに言ってんだ、遠慮なんかしなくていいぞ」
「え、や、あの…」
「…お前も道連れだ、今度は逃がさん」
先刻の事を根に持っているのだろう、ぜーぜーと肩で息をしている滝にも腕をがっしり掴まれる。
「それじゃ行くか!」
「勘弁して下さーい!」
結局、私は暴君委員長から逃げ切る事が出来ず、地獄のランニングに強制参加させられる羽目になったのだった。
羊だけじゃ物足りない
(やっぱり今日も振り回される運命なのか…)