「暇だ」
「暇だな」
「暇だね」
「あぁ、暇だな」
「暇だ」
「暇だよなぁ」
「あぁもう暇暇暇暇うっさいわ!そんなに暇なら潮江先輩や七松先輩と一緒に鍛錬でもしてきなさいよ!天候お構いなしに
やってるわよあの先輩方は」
「えー、だって濡れるの嫌だしー」
「じゃあ静かにしてなさいよ!」
「だって暇だもん」
室内にいても、激しく雨が地面を打ちつける音が聞こえてくる。
今は丁度梅雨の季節で、正直な所私も雨続きで気が滅入っている。
わざわざ濡れに行くのはごめんだし、かといって室内でやれる事なんて限られててつまんないし。
皆も私と同じ事を感じてるらしく、暇の潰し方を必死に考えているようだ。
「ふっふっふ…遂にこの秘密兵器を出す時が来たようだな」
沈黙を破ったのは三郎だった。
三郎が何か言い出した時にはロクな事があった例がないのだが、皆多少なりとも気になるようで、揃って三郎の方を見やった。
注目を集められて満足したらしい三郎は、大層勿体つけて懐から何かを取り出した。
「ここにトランプがある」
「何でそんな物持って…」
「細かい事は気にすんな!」
ひょっとして、いつも持ち歩いてるのかコイツ。
まぁ、常々変装道具持ち歩いてるし、十分ありえそうだけど。
「…で、だ。何もなしにただ勝負するだけじゃつまらないだろ?だから敗者は勝者の言う事を一つ聞くってルールでどうだ」
「お、いいねそれ。乗った!」
「まぁ、いいんじゃないか」
「僕も構わないよ」
「私も」
「よっし、んじゃ始めっか!」
そんな訳で勝てば天国負ければ地獄、五年だけの大富豪大会が始まったのだが。
「頼む、平和的なカード出してくれよ…!」
「んー…じゃあコレ」
「全然弱くねぇじゃん、俺そんなカード引いてすらねぇぞ!」
「じゃ、コレ出して、はい私上がりー」
「だーっ、また俺の負けかよ畜生!」
「何だ、またハチの負けか。そろそろお前に命令すんの飽きてきたぞ」
「俺だって好きで負けてんじゃねぇよ!」
「ハチは顔に出やすいんだよ」
本当にこういうゲームは性格がよく表れる。
事実、その真っ直ぐな性格が災いしてかハチが連敗記録を順調に更新中で、三郎は嫌なタイミングでカードを出してくる。
兵助はこういった頭を使うゲームは得意だし、雷蔵は頭も切れる上に何故かやたらと引きがいい。
これ、ハチがいなかったら確実に私が負けてるな…。
頼むからそのまま私の身代わりになっててね、特に三郎が勝った時は。
他の二人はともかく、三郎はとんでもない事要求してきそうだし。
強いカードが来ますように、と念じながら私は配られたカードを手に取った。
案の定というか何というか、今回も当然のように三郎が一抜けし、それに続いて兵助、雷蔵の順に上がっていった。
残ってるのは私とハチだけ。
互いに手札は二枚ずつ、ここで強いカードを出せた方の勝ちだ。
今回、引きは悪くない。
これなら勝てる、と判断した私は一番強いカードを自信たっぷりに出した。
悪いわねハチ、今回も勝たせてもらうわよ。
今回も悔しそうな顔してるんだろうな、と思ってハチの顔を見ると、予想に反して凄く嬉しそうに笑っていた。
「残念だったな、今回は勝たせてもらうぜ」
「…え、嘘…」
ハチが出したのは最強のカード、ジョーカーだった。
そう言えば、まだ一枚しか使われてなかったんだっけ…。
「よっし、俺上ーがりっ」
「……ハチだと思って油断してた」
「悪いな、今回引きが良かったんだよ」
「うぅ…」
見事に大貧民になってしまった。
悔しいけど、負けてしまったものは仕方ない。
潔く命令を聞く覚悟を決めるか。
えっと…、今回の大富豪は確か…。
「お、今回はが大貧民か」
…そうだ、命令されたくない男断トツのナンバーワン、鉢屋三郎だった…。
にやりという効果音の似合う笑みを浮かべ、「じゃあどうすっかなー」と至極楽しそうに考えている。
「さ、三郎?頼むからあの、お手柔らかにね?」
「可愛くお願い出来たら考えてやるよ」
「…っ」
出来るかそんな恥ずかしい事!
仮に出来たとしても、三郎には絶対にしたくない。
それをネタにいじられ続ける事が目に見えている。
三郎も、私がやらない事は予想通りだと言わんばかりに命令を考え続けている。
「んー…じゃあそうだな、雨が止んだら俺に付き合えよ、女装用の小物買いたいんだ」
「…え、それだけでいいの?」
「何、もっと凄い事お願いしてほしかったのかなちゃんは?だったら変更してやっても…」
「変更しなくていいです喜んで付き合わせて頂きます」
「最初っから素直にそう言やいいんだよ」
意外にも、三郎はまともな命令を下してきた。
私に気を遣ってくれたのかな。ハチには容赦なかったけど。
「…っそんなんアリかよ、ずるいぞ三郎!」
「ずるくなんかねーよ、ルールだろ。本人も納得してんだし」
何が不満なのか、ハチが三郎に猛抗議を始めた。
買い物に付き合うだけでいいなら、私としても助かるっていうのに。
まぁ、雨がいつ止むのかわからないのが難点かもしれないけど。
雨の様子を確認しようと、私は閉め切った扉を少し開けてみた。
「…あれ、雨止んでる」
「あ、本当だ」
いつの間に止んだのだろう、僅かに開けた扉の隙間からは晴れ間が眩しく見える。
「ねぇ三郎、折角晴れたんだから皆で行こうよ、その方が楽しいでしょ?」
「……わかったよ」
私の提案に、今度は三郎が不満そうに返してきた。
渋々といった感じだったけど嫌って訳じゃないみたいだし、他の三人も乗り気みたいだし、これは決まりね。
「よし、じゃあ十分後に校門前集合ね!」
雨にも負けず
(…勝負には負けたけど)