「…今正直に話せば校庭五百周で勘弁してやろう、何で俺の顔面を狙って豆なんざ投げた?」
「あら潮江先輩でしたか、私てっきり本物の鬼が来たかと」
「よーしいい度胸だ五百周走ってこい」
「嫌ですよ、先輩一人で勝手に走ってて下さい」
「んだとぉ!?」
「何ですかやるんですか、喧嘩なら買いますよ?」
「…二人とも、そこまでにして下さい。下級生が困ってます」
二人がいがみ合うのはいつもの事だが、このままだと僕らにも被害が及びかねないので、暴れられる前に仲裁に入る。
今回のいがみ合いの発端は、会計室に入ってこようと扉を開けた先輩の顔面めがけて迷う事なく豆を投げただ。
咄嗟の事にも反応し、見事に豆を避けた先輩は、まぁ流石鍛えているだけあって凄いと思う。
…僕は個人的には豆を避けられた後に「…外したか」と舌打ちと共に呟いたの度胸に拍手を送りたいが。
僕に聞こえているという事は、確実に先輩にも聞こえているという事で。
それが潮江先輩の怒りに拍車をかけて、今に至るという訳だ。
団蔵と左吉は二人のいがみ合いをどうしようどうしよう、とおろおろしながら見守っているし、左門に至っては無視を決め込んだようで
暇潰しに豆をひとつひとつ摘み上げて数を数えている。
「ごめんね二人とも、潮江先輩の所為で困らせて。じゃ、豆まきやろっか、鬼も来た事だし」
「それは誰の事だ言ってみろ」
「やだなぁそんな事も分からないんですか?内面は元よりですし、頭に苦無装着したら外見も完璧じゃないですか」
「お前も十分適役だと思うぞ」
「何言ってんですか、皆女の子に対して優しく出来るいい子達なんですから私に豆を投げ付けるなんてそんな事しませんよ、潮江先輩と違って」
「俺は忍者の三禁は守る、それだけだ」
「そうですね、先輩頑固親父ですもんね」
「俺はまだ十五だ断じて親父じゃねぇ!」
「あ、“頑固”の部分は否定しないんですね」
そろそろ二人の言い合いに飽きてきたのか、下級生達がもしゃもしゃと豆を貪り始めた。
…僕も豆食べようかな。
鬼は内にあり
(…ところで、先輩は何でわざわざ苦無を頭に付けるんだろう)