「いいかお前ら、はぐれたらすぐ俺に連絡しろよ」
今日は左門、三之助、と俺の四人で近所の祭りに来ている。
最初に「皆で行こうよ!」と話を持ち掛けてきたのはで、特に予定のなかった俺らは断る理由もなく、こうしてやって来た訳なのだが。
目の前を行き交う人の量が、とにかく多い。
こんな中こいつらに迷われたら、と考えるだけで気が滅入ってくるので、目を離さねぇようにしねぇと、と心の中で固く誓って一応注意を喚起してやると。
「安心しろ、今日は迷わないぞ!」
「そうだぞ、左門はともかく、俺は生まれてこの方迷子になった事なんか一度もねぇし」
「二人とも、そう言っておきながらいつも迷子になってるでしょ。気を付けてよね」
「…俺はお前にも言ったつもりなんだがな」
駄目だ、こいつら全然自覚してねぇよ自分の方向音痴を!
自然と溜め息も零れてくるってモンだ。
仕方なく、言い方を変えて注意してやる。
「…俺がはぐれたら連絡してくれ」
「わかった、気を付けるんだぞ作兵衛!」
「そうだぞ、気が付いたらいっつもいなくなってるもんな、作兵衛」
「……」
「いなくなるのは毎回毎回どっちだと思ってんだ!」と怒鳴りたくなったのを、何とか飲み込んだ。
落ち着け、大人になるんだ俺。ここは冷静に対応するんだ。
「よし、じゃあ早速夜店を回りに行くぞ!」
「待て、そっちは反対方向だ左門」
言った側から迷子への道を踏み出しやがった左門の首根っこを引っ掴んで待ったを掛ける。
…この先が思いやられるな、と思いながら俺は三人を正しい道へと引き摺っていった。
―――それからものの数分後。
「ねぇ作兵衛、左門と三之助の姿が見当たらないんだけど気のせい?」
「…は?」
に言われて慌てて辺りを見渡すと、確かに二人の姿は影も形もない。
「あいつら、言ってる側から迷子になりやがって…!」
いつだったか、同級生に「保護者」だと称された事がある。
いつ見てもあの方向音痴二人を捜し回ってるってんでその呼び名が付いたらしいのだが、冗談じゃない。
俺は保護者じゃねぇんだぞ、何でこう毎回毎回いなくなるんだよあいつらは!
本当にこういう時、文明の利器のありがたさが身に沁みる。
携帯電話をこの世に送り出した名も知らない誰かに、心の底から感謝する。
とりあえず、何処にいるのか聞いてみようと携帯を開くと、メールが一通届いていた。
すぐさま中身を確認する。送り主は三之助だった。
意外と早く迷った事に気付いたな、と軽く驚いて文面を読み進める。
「俺らは俺らで勝手に回ってるから、二人でゆっくり楽しんでこいよ」
…「俺ら」って事は、二人とも一緒にいるって解釈していいんだよな。
それじゃ捜し回る手間が一人分省けるな、と前半部分に目を通している時には暢気に考えていたのだが、後半の文面に思わず固まった。
と二人でって、それじゃ、まるで、デ、デ、デートみたいじゃねぇか!
あいつらの姿を見つけようとしてるのか、辺りをきょろきょろ忙しなく見渡しているを見やる。
可愛らしい柄の浴衣を着ているは、中身が変わったって訳じゃねぇのに、普段より女っぽく見えると言うか、何と言うか。
先刻までそんなに意識してなかったのに、急に顔に熱が集まり始めた。
…ったく、あいつら余計な気ばっかり遣いやがって。
いや、そもそも本当に気を遣って自分の意思でいなくなったのか、それともただ単に迷子になっただけなのかは判別出来ねぇが。
俺としては前者である事を祈りたいが、まぁ十中八九後者だろうな。
溜め息と共に携帯を閉じて、ジーンズのポケットに捩じ込む。
「二人、何だって?」
携帯をしまうと、二人からの連絡だったんだよね、と尋ねられる。
普段だったらここですぐに捜索に向かう所なんだが。
「…はぐれちまったモンはしょうがねぇから、二人で勝手に回ってろってよ」
「…あの二人、放っといても大丈夫?」
「あいつらだって子供じゃねぇんだし、大丈夫だろ。…だから、」
メールの文面を少しばかり言い換えて伝える。
確かにあの二人の事は多少気掛かりではあるが、この人込みの中で捜し回るのは難しいだろう。
それに、いざとなったら携帯だってある。本当に困ったら連絡を寄越してくるだろう。
…だから、これが最善の策だと思うんだ。
「…だから、二人で回りながら捜そうぜ」
ほら、手貸せ、と有無を言わさずにの手を取る。
「え、さ、作兵衛…」
「お、お前まではぐれちまったら面倒だからな!こうしてれば大丈夫だろ!」
顔が見えないように、の手を引いて前を歩く。
名前を呼ばれて、聞かれてもいないのに言い訳のように口実を口にすると、軽い笑い声が返ってきた。
「…そうだね」
返事と共に握り返してきたその手の温もりを手放さないように、俺も力を込め直した。
「…で、どうよ作兵衛。ばっちり楽しめたか?」
「…っ」
「作兵衛、顔真っ赤だぞー?」
その後、祭りが終わってからやっと見つけ出した二人にからかわれる事になるのだが、今回は特別に許してやろうと思う。
捜索本部に休息を
(うるせぇな、楽しかったよ畜生!)